一、小野道風青柳硯(おののとうふうあおやぎすずり)
三蹟の一人で、花札の絵柄でも知られる小野道風が、蛙が柳に飛びつく姿を見て悟りを開いたという逸話に想を得た物語で、二世竹田出雲、吉田冠子、近松半二、三好松洛の合作により宝暦4年(1754)に大坂竹本座で人形浄瑠璃として初演された。今回上演する「柳ヶ池蛙飛の場」は全五段のうちの二段目にあたる。
舞台は東寺の近くの柳ヶ池。浅葱幕が振り落されると花道から公家装束に黒の蛇の目傘を持った小野道風(梅玉)の出。ついに木工頭に任ぜられ身分が変わって、降る雨にも情趣を味わう姿は最初の見どころ。そして柳に蛙が飛びつく様子を見て、橘逸勢の謀反の企みもいつかは天下を覆すほどの大事に至ることを悟る場面での道風の長台詞は聴きどころ。
続いて道風と逸勢の手下の独鈷の駄六(翫雀)との相撲の技を取り入れた立ち廻りとなる。道風が褌姿の駄六を池に投げ飛ばす様子は痛快で、逃げ去る駄六が蛙の格好を見せるユーモアも楽しい場面で幕となる。
二、紅葉狩(もみじがり)
九代目團十郎が初演した新歌舞伎十八番の内のひとつ。能の『紅葉狩』を題材として豪華な歌舞伎舞踊に仕立て上げられている。常磐津・竹本・長唄の三方掛け合いで演奏する大曲である。
舞台は紅葉真っ盛りの信州・戸隠山。従者を連れて紅葉狩にやってきた平維茂(染五郎)は、更科姫(福助)と名乗る美しい高位の姫の一行に呼び止められ酒宴に加わる。盃を酌み交わし、姫たちの舞に見とれるうちにまどろむ維茂主従。姫は時折怪しい動きを見せながらいずこへともなく消え去る。眠り込んだ維茂の前に山神(松緑)が現れ、姫だと見えたのは実は鬼であることを踊って知らせる。やがて目覚めた維茂は正体を現した鬼女と闘い、激しい立ち廻りを見せる。
前半は二枚扇の技巧なども見せつつ優雅に踊る美しい姫、後半は一変して隈取をして凄みを見せる鬼女、この演じ分けが最大の見どころだが、維茂の勇壮さや山神の躍動的な踊りも見逃せない。また更科姫の侍女・野菊の艶かな踊りや、維茂の従者・右源太、左源太の滑稽な踊りも、エッセンスとなっている。それぞれの役にしどころがあり変化に富む、華やかな舞踊の大作である。
三、増補双級巴 石川五右衛門(ぞうほふたつどもえ いしかわごえもん)
石川五右衛門といえば今に知られる天下の大泥棒。元忍者、由緒ある武家の血筋、秀吉と幼馴染みであるなど様々な俗説や伝説を題材にして、数々の作品が作られた。その数ある五右衛門狂言の面白い場面をまとめたのが本作。木村円次作、文久元年(1861)、江戸守田座で初演、五右衛門をケレンの名人といわれた四世市川小團次が演じ、つづら抜けの宙乗りが好評を博した。
大胆にも公家に化けて足利御所へ乗り込んだ五右衛門(吉右衛門)は久吉(梅玉)に会う。別々の道を歩む二人だが、実は幼馴染み。思わず昔に戻り寝転んで頬杖をついて話す様が面白い。その後、宙乗りとなり五右衛門のつづら抜けと悠々と宙を引込むさまは前半の大きな見どころ。
大詰「南禅寺山門の場」は、五右衛門狂言には欠かせない名場面。自身の出生の秘密が明らかになり、さらなる大望を抱く五右衛門。豪華絢爛な山門を舞台に、悠然と満開の櫻を愛でる五右衛門とそれを見つめる巡礼姿の久吉との構図は、歌舞伎の様式美の極致である。全編に見どころが多く、理屈抜きに楽しめる演目。
四、汐汲(しおくみ)
能の『松風』に題材をとった舞踊。二世桜田治助作詞、二世杵屋正次郎作曲。文化8年(1811)江戸市村座にて三代目坂東三津五郎が初演。七変化の舞踊『七枚続花の姿絵』の内の一つが独立して上演されるようになった作品。烏帽子狩衣を身につけ桶を担いだ姿は羽子板や人形でもおなじみである。
蜑女苅藻(藤十郎)が登場し、亡き恋人の在原行平を慕いつつ汐を汲む様子を見せる。その後扇を用いた軽やかな踊り、手拭いを使ったくどきで娘心をしっとりと見せ、三段傘を使っての軽快な踊りに続いて、最後は舞がかりとなり荘重に舞納める。品位と格を要する作品である。 |